「自分は能力もあるし、真面目に働いている」「でも、外見で損をしている」―。ということに気づいたとき、外見を演出する細かいノウハウについては、雑誌などに多くの情報があります。
それを見てすぐに外見を改善できない人は、潜在的に下のような考えを持っていることが多いものです。
- 見た目で勝負するのは何か違う気がする
- 世間に媚びているような気がする
- それは本当の自分ではない気がする
このような考え方も悪くないのですが、現実に外見で損をしていると感じているなら、外見を変えなければいけません。そのとき「外見を変えることの本質」を学べるのが、2005年にベストセラーとなった『人は見た目が9割』です。
今回はこの本の内容を要約しながら「見た目を整えることの本質」を説明していきます。「中身はあるのに外見で損をしている」というビジネスマンの方は、この記事を読むことで、その中身をより多くの人に理解してもらい、その人たちの役に立てるようになるでしょう。
会話やプレゼンで、情報自体が持つ価値は7%しかない
会話やプレゼンで「話す内容」が持つ価値は、実は7%しかありません。これは「メラビアンの実験」によってわかったものです。
この実験はアメリカの心理学者アルバート・マレービアン博士によるものです。博士は「人がコミュニケーションを取るとき、他人が発するどんな情報に、どれだけ影響を受けているか」を調べたのです。
結果、3つの情報ごとに、下の割合で影響を受けていることがわかりました。
[st-table]
情報の種類 | 概要 | 影響度 |
---|---|---|
視覚情報 | 容姿、服装、仕草、表情など | 55% |
聴覚情報 | 声質、音量、速さ、口調など | 38% |
言語情報 | 会話の内容 | 7% |
[/st-table]
表のとおり「視覚情報・聴覚情報」の合計が93%となります。「話す中身」である言語情報については、7%の影響力しか持っていなかったのです。
この法則は「メラビアンの法則」とも「3Vの法則」ともいわれます。
- Visual(視覚情報)
- Vocal(聴覚情報)
- Verbal(言語情報)
上記の3つの頭文字を取ったものです。この3Vの法則が「人は見た目が9割」というタイトルの由来になっています。
(正確には声も入るので「人は雰囲気が9割」といえるでしょう)
① 容姿:演出家は配役を「顔だけ」で決めている
本書の著者の竹内一郎さんは「さいふうめい」名義で活躍する、演出家でもあります。その竹内さんが本書の中で、俳優・女優のキャスティングについて、下のように書かれています。
随分荒っぽいことだが、「見た目」で「どんな人」かを決定していくのである。
引用:P.23より
具体的には、顔の輪郭について以下の例が挙げられています。
丸顔 | 明るい、優しい、決断力や行動力がない |
角顔 | 決断力・行動力がある、短気 |
逆三角形の顔 | 学者タイプ、仕事が早い、暗い |
マンガでも昔から見られる分類ですが、こうして「荒っぽく」配役を決めるそうです。演出家も役者もお客さんも「顔の輪郭で性格が決まるわけがない」ということは知っています。
しかし、いざ舞台になると「そういう顔の人」が出てきただけで「こういう人に違いない」と観客も思うわけです。この思い込みは現実の生活にもある程度浸透しています。
そのため、私たちは「主役に選ばれようとする俳優」のように、世間の思い込みに「自分の外見を合わせる」べきなのです。顔の骨格は変えられなくても髪型によって輪郭は変えられます。
ビジネスマンであれば、髪型・髭・服装・メガネなど、あらゆるパーツを駆使して「自分が目指すビジネスマンの像」に形から近づいていくようにしましょう。
② 声:高低・スピード・口調で印象を操作できる
声も重要な見た目(雰囲気)です。ビジネスマンなら「低音でゆっくり話す」という基本を意識しているでしょう。
声の高低やスピードと合わせて重要なのは「口調」です。口調も顔と同じく「こういう口調ならこういう人」という先入観を持たれやすいものです。
たとえば方言について言えば、ドラマや映画の世界では下のように分類されています。
東北弁 | 貧しい農民 |
大阪弁 | ケチ |
京都弁 | 浮世離れして上品な人物 |
広島弁 | ヤクザ |
土佐弁 | 志が大きな男(坂本龍馬のイメージ) |
博多弁 | 男っぽくてたくましい人 |
薩摩弁 | 人望がある傑物(西郷隆盛のイメージ) |
日常生活でも、たとえば「駅員さんの口調」「居酒屋の店員さんの口調」など、それぞれの職業に特徴があります。同じように「有能なビジネスマンの口調」にも特徴があり、それをコピーすることで「有能な人だと思ってもらえる」わけです。
(コピーするためには有能な人の話を多く聞く必要があり、その過程で実際に有能になります)
③ 表情:大統領討論の勝敗は「まばたきの回数」で決まる
アメリカ大統領選挙の公開討論では「まばたきが少ない方が勝つ」という法則があります。正確にいうと、討論の放送後の世論調査で、まばたきが少ない方が有利になるということです。
この法則は2004年の大統領選でも如実に現れました。ブッシュ大統領とケリー候補の公開討論で、初回のブッシュ大統領は瞬きの回数が多く、国民の投票でもケリー氏に大差をつけられました。
しかし、2回目で瞬きの回数を抑えると、評価の差は大幅に縮まったのです。実は、このアメリカ人の「決め方」には、一種の科学的根拠があります(本人たちは意識していませんが)。
それが、次の段落で説明する「モリスの格付け」の最高ランクである「自律神経信号」です。
④ 動作:「モリスの格付け」を意識する
その根拠とは「モリスの格付け」です。動物行動学者のデズモンド・モリスがまとめた「人間の信頼できる動作」の格付けのことです。
モリスは、動作の信頼度の格付けを下のようにまとめました(上位のものほど信頼できる動作です)。
- 自律神経信号
- 下肢信号
- 体幹信号
- 見分けられない手振り
- 見分けられる手のジェスチャー
- 表情
- 言語
まず、言語はいくらでも嘘をつけます。表情はかなり本音が出ますが、これも訓練でごまかせます。
ジェスチャーは、たとえば「笑っているけど腕組みをしている」などのケースがしばしばあります。これは緊張していることが多いのですが、表情では隠せない本音が出やすいものです。
「見分けられない手振り」は、たとえば「腕組みしながら、腕の中で指を細かく動かしている」などです。動きが小さく気づきにくいものの「確かに動いている」というものです。大きなジェスチャーについては意識して抑えられても、こうした細かい動きまでは抑えられないというケースが多くあります。
体幹信号は「体の姿勢」です。
- 緊張すると胸が張る
- 自信がないと肩がしぼむ
という風に、人間の心理状態は無意識のうちに、体の姿勢に現れています。これも努力すればコントロールできるものであり、むしろ「コントロールすることで、気持ちが落ち着く」など、「体が心をコントロールする」ことがしばしばあります。
下肢信号は「足の動き」です。たとえば緊張すれば足が震えます。
一定レベルの緊張なら、震えをごまかすこともできるでしょう。しかし、もっと上の緊張になると、震えを止めることも難しくなります。
自律神経信号は、心臓の鼓動や発汗などの現象です。嘘発見器は、この鼓動(脈拍)の変化を利用したものです。発汗については、特に脇汗の量などで、その人の本当の緊張度合いなどがわかります。
自律神経信号が乱れると、ここまでコントロールできたものが、すべてコントロールできなくなります。足が乱れ、体も落ち着かず、手振りも混乱してきます。
まばたきの回数も、自然に多くなります。このため、アメリカ人が大統領選の公開討論で「まばたきの回数を見る」というのは、ある意味理にかなっているのです。
マザー・テレサなど多くの偉人が「言葉が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる…」という格言を残しています。この言葉のように、「言語を変え、表情を変え、ゼスチャーを変え…」と、モリスの格付けを一つずつクリアしていくといいでしょう。
やがては、自律神経すらコントロールできる修行僧のような境地にも、到達できるはずです。
⑤ 距離:物理的距離と精神的距離はイコールである
物理的な距離は、そのまま両者の心理的な距離を表します。アメリカの文化人類学者エドワード・ホールは「八つの距離帯」として、下の表の考え方を発表しています。
密接距離 | 0~45cm | 極めて親しい者同士 |
個体距離 | 45~120cm | 友人同士 |
社会距離 | 120~360cm | 仕事上の付き合い |
公衆距離 | 360cm以上 | ほとんど無関係 |
ホールはそれぞれの距離をさらに、「近接相・遠方相」の2つに分けています。同じゾーンでも「近い方・遠い方」があるということです。
このため、ホールの説では距離は8つですが、簡単にまとめると距離は上の4種類となります。
この物理的距離が近ければ、両者の関係も深くなっていく事象が観察されています。つまり、誰かと仲良くなりたいと思ったら、
- 「仲良くなる」と抽象的に考えるのではなく、
- 「距離をセンチ単位で縮める」と、物理的に考える
のがいいわけです。そのために、近づいても不快に思われないファッション・匂い・表情などを意識する必要があります。
要は最終的に「すべて必要」になるのですが「仲良くする=センチ単位で距離を縮めること」と考えると、目標がわかりやすくなるでしょう。
⑥ マナー:ライブドアの失敗と楽天の成功
マナーも「見た目」です。理由は、その場にいる人たちの常識や文化を尊重するという意思を、外見と振る舞いで示せることにあります。
逆にマナーを軽視することは、その相手や集団を軽視することを「見た目」で伝えることになります。本書で紹介されている例は、2004年のライブドア・堀江貴文さん(当時社長による、プロ野球球団の買収計画です。
この買収を進めている間、堀江さんはすべての場面を「ノーネクタイ」で通しました。結果、常識に縛られたくないという若い層からは絶大な支持を得た一方、買収には失敗しました。ネクタイを締めて仕事をする、球団の経営者層の反感を買ったためです。
堀江さんの本当の目的は「自分に合ったファンを増やす」ことだったと思われます。一方、球団を本気で設立する気があった楽天の三木谷社長は、すべての場をネクタイ着用で通し、無事に楽天イーグルスの設立に成功しました。
まとめ
本書は、見た目を良くする「小手先のノウハウ」をまとめた本ではありません。「人の中身や意志は、自然と外見や振る舞いに出る」ということを伝える本です。
つまり、しばしば本書が誤解されているように「人は外見が大事」と言っているわけではありません。
- 大事なのは内面である
- しかし、その内面は外見に自然と出ている
- また、外見を意識して正すと、内面も変わる
- だから、外見は大事
ということを言っているのです。こうした「外見を変えることの本質」を理解すると「外見を整えることへの心理的抵抗」が薄れるでしょう。